・甲府盆地で100年以上にわたり猛威を振るった風土病の患者を受け入れていた医院が、現在は資料館として歴史を伝えている。1996年の終息宣言から30年が経過し、地域の記憶が薄れつつある中、現代アートを活用した新たな取り組みも始まっている。
・風土病とは特定地域で流行した病気を指し、山梨県では寄生虫感染症の日本住血吸虫症が広く恐れられていた。重症化すると腹部が膨らみ、命を落とすケースもあった。公式な確認は19世紀後半だが、さらに古い時代の文献にも似た症状の記録が残されている。
・その歴史を今に伝えるのが、山梨県昭和町にある「昭和町風土伝承館杉浦医院」。病気の研究と治療に尽力した杉浦健造医師が開業した医院で、1929年築の建物や診療器具、薬瓶、顕微鏡などが当時のまま保存されている。患者であふれていた時代の空気を感じられる施設となっている。
・2代目館長の出井寛さんは、行政や医師たちが協力し、一つの感染症を克服した歴史を後世へ伝えていきたいと語っている。
・日本住血吸虫症は明治時代、地域住民の約10人に1人が感染するほど深刻な問題だった。しかし杉浦医師らの活動に加え、県が農業用水路をコンクリート化して寄生虫の繁殖を防ぐ対策を進めたことで患者数は減少。国内では1978年を最後に感染者が確認されなくなった。
・一方で、近年は病気の記憶を知る世代が減り、歴史継承が課題となっている。伝承館では絵本制作や学校での授業に取り組むほか、2023年からは現代アートとのコラボ企画も開催している。
・会場には、寄生虫を表現した切り絵や、厄除けをテーマにした鬼の彫刻など、病気の歴史を題材にした作品が並ぶ。初めて来館する人も多く、好評を受けて毎年続けられている。
・出井館長は、アートを通じて病気への理解を深めながら、美術館のような感覚でも楽しんでほしいと期待を寄せている。